9月17日(火):
ハッブルとメイブン、火星の水の蒸散の謎を解く (メイブン)
<前書き>: この記事では“同じ岩石惑星なのに、地球と異なって、火星には何故地表に水がないのか”という、長年の普遍的な疑問に答える調査結果を述べています。この課題を解くために、これまで、NASAは探査機メイブンを、ヨーロッパ宇宙機関はエクソマーズを。この目的に専念する探査機として打上げてきました。この問題は、水があってこその人類にとって、無関係ではいられないテーマだからです。
火星は、その表面の地質学的特徴から明らかなように、かつては非常に湿った惑星だった。科学者達は、これまでの30億年の間に、少なくとも一部の水が地下深くに流れ込んだことは知っているが、残りはどうなったのだろう? 今、NASAのハッブル宇宙望遠鏡とメイブン(MAVEN:Mars Atmosphere and Volatile Evolution;火星大気と揮発性進化)ミッションが、その謎を解き明かすのに役立っている。
研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡とメイブンのデータを組み合わせて、宇宙に逃げる水素原子の数と現在の脱出速度を測定した。この情報により、彼らは脱出速度を時間をさかのぼって推定し、火星の水の歴史を理解することができた。
水素の逃避と「重水素」
火星の大気中の水の分子は、太陽光によって水素原子と酸素原子に分解される。具体的には、水素と、原子核に中性子を持つ水素原子である重水素を測定した。この中性子は、重水素に水素の2倍の質量を与える。その質量が大きいために、重水素は通常の水素よりもはるかにゆっくりと宇宙に逃げる。
時間が経つにつれて、重水素よりも多くの水素が失われると、重水素と水素の比率が大気中に蓄積された。今日、この比率を測定することで、科学者達は、火星の暖かく湿潤な時期にどれだけの水が存在していたかを知る手がかりを得ている。これらの原子が現在どのように逃げているかを研究することで、過去40億年の間の脱出速度を決定したプロセスを理解し、それによって時間をさかのぼって推定することが可能となる。
この研究のデータのほとんどはメイブン宇宙船からのものであるが、メイブンは、火星の年の中で、いつでも重水素の放出を見るには十分な感度を持っていない。地球とは異なり、火星は火星の長い冬の間、楕円軌道で太陽から遠く離れてスイングし、重水素の放出は弱くなる。チームは、ハッブル宇宙望遠鏡のデータを「空白を埋める」ために、火星の3年(それぞれ地球の687日)の年間サイクルを完了する必要があった。ハッブル宇宙望遠鏡は、メイブンが2014年に火星に到着する前の、1991年まで遡って追加のデータを提供した。
これらのミッション間のデータの組み合わせによって、火星から宇宙に逃げる水素原子の全体像を初めて把握することができた。
<図>: これらは、2017年12月31日の、火星から最も遠い点(遠日点)付近(上)と、2016年12月19日の、太陽への最接近付近(近日点)付近(下)を撮影したハッブル宇宙望遠鏡の遠紫外線イメージである。火星が太陽に近づくと、大気は明らかに明るくなり、より広がる。これらの波長での火星からの反射する太陽光は、大気の分子と霞による散乱を示し、極地の氷冠といくつかの表面の特徴も見える。ハッブル宇宙望遠鏡と軌道船メイブン(MAVEN)は、火星の大気条件が非常に速く変化することを示した。火星が太陽に近づくと、水の分子が大気中を非常に速く昇り、高高度で原子を離散させ放出する。
ダイナミックで乱れた火星の大気
近年、科学者達は、火星の年周期が、10年または15年前に人々が予想していたよりもはるかに動的であることを発見した。大気全体は非常に乱れ、短い時間で、さらには数時間で加熱および冷却される。火星の太陽の明るさが火星の年間に40%変化すると、大気は膨張および縮小する。
チームは、火星が太陽に近づくと、水素と重水素の脱出速度が急速に変化することを発見した。科学者達が以前に持っていた古典的な図では、これらの原子は大気中をゆっくりと上向きに拡散し、逃げることができる高さまで拡散すると考えられていた。
しかし、その写真はもはや全体像を正確に反映していない、なぜなら、今、科学者達は、大気の状態が非常に速く変化することを知っている。火星が太陽に近づくと、水素と重水素の源である水の分子が大気中を上昇し、高高度で原子を放出する。
二番目の発見は、水素と重水素の変化が速く、それらを説明するには原子の脱出が更なるエネルギーを必要とすることである。上層大気の温度では、火星の重力から逃れるのに十分な速度を持つ原子はごく一部である。より速い(超熱的な)原子は、何かが原子に余分なエネルギーを与えるときに生成される。これらのイベントには、大気中に突入する太陽風陽子による衝突や、上層大気で化学反応を引き起こす太陽光が含まれる。
代替えとしての役割を果たす
火星の水の歴史の研究は、我々の太陽系の惑星を理解するだけでなく、他の恒星の周りの地球サイズの惑星の進化を理解するための基本でもある。天文学者達は、これらの惑星を一層発見しているが、詳細に調査することは難かしい。火星、地球、金星は、全て、太陽系のハビタブル・ゾーン、つまり岩石惑星に液体の水が溜まる可能性のある恒星の周辺の領域にある。しかし、これら三つの惑星は、すべて、現在の状況が劇的に異なる。火星は、その姉妹惑星とともに、科学者達が銀河系全体に広がる世界の性質を把握するのに役立つ。
これらの結果は、米国科学振興協会(American Association for the Advancement of Science)が発行する Science Advances の7月26日号に掲載されている。
ハッブル宇宙望遠鏡は30年以上にわたって運用されており、宇宙に対する基本的・画期的な発見を続けている。メイブンチームは、2024年9月に、火星での探査機の10周年を祝う準備をしている。
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Sept 05, 2024