6月20日(火):
NASAは火星で調査する全ての場所に、何故、また、どのようにして名前を付けるのか?
<図1>: この図は、NASAのパーサビアランス火星探査車の近くにあるさまざまな象限のテーマを示している。
NASAのパーサビアランスローバーは現在、火星のベルバ・クレータ(Belva Crater)の縁に沿った岩の露頭を調査している。一方、約 3,700 キロメートル離れたNASAのキュリオシティローバーは、最近、「ウバハラ(Ubajara)」と呼ばれる場所でサンプルを掘削した。クレータには正式名称が付けられている。ドリルの場所はニックネームで識別されるため、引用符がつけられている。
いずれの名も、NASAのミッションによって、クレータや丘のみならず、調査するすべての岩、小石、岩の表面にも適用された数千の一つである。
これら名前を選ぶ一番の理由はチームが毎日何を見つけているかを追跡できるようにすることであり、後に、多くの丘や岩を名前で参照しながら話し合い、最終的にその発見をドキュメント化することができる。
科学者達が識別子を考え出す方法は、漫画のキャラクター名を使用した25年前の初期の頃から進化してきた。
<図2>: NASAはどのように名前を付けるか
火星科学者達がクレータ、丘、谷、岩にどのように名前を付けるかの詳細は右のイメージのリンク先(Youtube:英語解説)から。
正式名称: 火星の正式名称と非公式名称の違いは一見単純である。公式名称は国際天文学連合(IAU)として知られている科学者達の団体によって承認されている。連合は、惑星の特徴に名前を付けるための基準を設定し、その名前を惑星命名法の地名集に記録する。
例えば、60キロメートルを超えるクレータは、有名な科学者達やSF作家にちなんで名付けられ、小さなクレータは、人口が100万人未満の町にちなんで名付けられる。パーサビアランスが調査しているジェゼロ・クレータは、ボスニアの町の名前を共有している。ジェゼロ内のインパクトクレータであるベルバ(Belva)は、ウェストバージニア州の町にちなんで名付けられている。
火星では 2,000 を超える場所に正式な名前が付けられているが、火星の地図にはさらに多くの非公式なニックネームが点在している。
進化するニックネーム
初期の火星ミッションでは、漫画のキャラクター名を使用した、ニックネーム付きの気まぐれなルートを取ることがあった。「ヨギ・ロック(Yogi Rock:ヨギ岩:ヨギはクマの縫ぐるみ)」、 「キャスパー(Casper)」 、 「スクービー・ドゥー(Scooby-Doo:架空の犬の名前)」 などは、1990年代後半にNASAの最初のローバーであるソジャーナのチームによって適用された非公式の名前の一つだった。
スピリットとオポチュニティのローバーでその哲学が変わり、チームはより意図的な名前を使い始めた。たとえば、オポチュニティチームは、探検家アーネスト・シャクルトンの南極大陸への不運な遠征を運んだ船を称えるために、クレータに「エンデュランス」というニックネームを付けた。キュリオシティとパーサビアランスが着陸した場所の名前は、それぞれのSF作家、レイブラッドベリとオクタヴィア E. バトラーを称えている。インサイト(InSight)チームは、着地中に着陸船の逆噴射によって揺さぶられた岩を、バンドにちなんで「ローリング・ストーンズロック」と名付けた。また、キュリオシティ・チームは COVID-19 の合併症で亡くなった同僚のラファエル・ナバロ・ゴンザレスにちなんで火星の丘に名前を付けた。
図3:キュリオシティの象限テーマ:このマップは、NASAのキュリオシティ火星探査車のすべての象限のテーマを示している。赤い楕円形は、ローバーが2012年に着陸する予定だった着陸楕円を示している。黄色の象限は、それ以来ローバーが通り抜けてきた領域である。
火星上の地球
時折の例外にもかかわらず、キュリオシティとパーサビアランスのミッションは、地上の場所に基づいたニックネームに固執している。キュリオシティが2012年に着陸する前に、ローバー・チームは着陸エリアの地質図をつくった。彼らはグリッドを描き、両側に約 1.2 キロメートルに相当する正方形または象限を作ることから始めた。これらの象限は、地質学的に重要な場所をテーマにしている。
そして、今のように、チームメンバーは、彼らが働いたことのあるサイトや個人的なつながりのあるサイトに基づいてテーマのアイデアを提案し、将来の科学論文でさまざまな名前が記念されることを念頭に置いて最も興味深いかを非公式に議論した。テーマが選択されると、そのテーマに適合する何百もの名前がコンパイルされる。キュリオシティが数ヶ月間その象限にとどまる可能性があることを考えると多くが必要となる。
ローバーのチームは、キュリオシティの最新の象限に、ブラジル最北の州ロライマ(Roraima)と、ベネズエラ、ブラジル、ガイアナの国境の近くのパラカイマ(Pacaraima)山脈の最高峰ロライマ山のためにロライマ(Roraima)を選んだ。これは、初めての南米の象限テーマを印した。
ローバーは、今、岩の山の象限を探査しており、最近、ロッキー山国立公園の“パウエルの峰(Powell Peak)”のニックネームの場所で岩に穿孔した。
大判はそれぞれのイメージをクリック。
<参考>: 火星探査の当初、初めての探査車ソジャナーの時代、クマの縫ぐるみに似た岩に「ヨギ」、同じく「スフレ(菓子)」、「ロックガーデン」、「ツイン・ピークス」など、様々なニックネームが付けられた。これには大きな意味があった。例えば Rock 01 など数字を用いることも考えられる。特に上の図に示すようなマトリックスに分割された地形の場合、左上から Regio 11 、Regio 12 などと命名する方が分かり易いとも考えられる。しかし、数字は「正確に伝えにくい、誤解され易いという致命的な欠陥を含んでいる。例えば、ある探査で、キロメートルとマイルとを取り違えて致命的な失敗に結びついた例もある。多くの人達の協力を必要とする宇宙探査では、多少煩瑣であっても「正確な伝達」が非常に重要な課題になる。
June 08. 2023