ウェッブとハッブルが見た渦巻銀河
Webb and Hubble’s Views of Spiral Galaxy<総合解説>
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が近赤外と中赤外光で撮影した19の渦巻銀河のコレクションは、圧倒的であると同時に畏敬の念を抱かせるものである。
「ウェッブの新しいイメージは並外れている」と、宇宙望遠鏡科学研究所(Space Telescope Science Institute)の戦略的イニシアチブのプロジェクトサイエンティスト Janice Lee は述べている。「何十年も同じ銀河を研究してきた研究者達にとっても驚異的である。バブルとフィラメントが、これまでに観測された最小のスケールにまで分解され、星形成サイクルについて物語っている。
ウェッブの近赤外線カメラ(NIRCam)は、これらのイメージで何百万もの星を捉えた。古い星は青く見え、銀河の中心に集まっている。
この望遠鏡の中間赤外線装置(MIRI:Mid-Infrared Instrument)による観測では、輝くダストが強調され、星の周りや星の間の何処に存在するかが赤やオレンジの色で表示されている。まだ完全に形成されておらず、ガスやダストに包まれている星は、真っ赤に見える。
ウェッブの高解像度イメージがガスやダストの中の大きな球形の殻(shells)をこれほど精巧に映し出したのは初めてである。これらの穴は星が爆発して星間物質に巨大な領域を刻んだことによって作られた可能性がある。
他の目を引く詳細は、いくつかの銀河の核がピンクと赤の回折スパイクであふれていることである。これらは、これらの銀河が中心の活動的な超大質量ブラックホールや中心の星団を持っている可能性を示す明確な兆候である。
これらの渦巻銀河は、NASAのハッブル宇宙望遠鏡、超大型望遠鏡の多単位分光探査機(MUSE)、アタカマ大型ミリ波サブミリ波望遠鏡(ALMA)からの既存のイメージとデータを含む、ウェッブの近傍銀河における高角分解能物理学(PHANGS:the Physics at High Angular resolution in Nearby GalaxieS program)計画への最初の大きな貢献である。ウェッブのイメージによって、研究者達は、これらの銀河を紫外線、可視光線、赤外線、電波で調べることができるようになった。
ウェッブ宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡が撮影した19個の銀河のイメージを並べて見よう。
<お断り>:記事は膨大であり全てをご紹介することは難しく、以下、先頭に出てくる銀河 NGC 1566 のみを取り上げて掲載します。
その他の記事は下の表のリンクからご覧ください。(英語)
ウェッブとハッブルが見た渦巻銀河 NGC 1566
Webb and Hubble’s Views of Spiral Galaxy NGC 1566このイメージでは、向かい合った渦巻銀河 NGC 1566 が斜めに分かれており、右下にジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測結果、左上にハッブル宇宙望遠鏡の観測結果が表示されている。ウェッブとハッブルのイメージは、暗闇と光の反転という印象的なコントラストを示している。これは、ウェッブの観測、近赤外線光および中間赤外線光と、ハッブル宇宙望遠鏡の観測、可視光と紫外線光を組み合わせたものである。ダストは紫外線と可視光線を吸収し、赤外線として再放出する。ウェッブのイメージでは、赤外線で光るダストが見える。ハッブル宇宙望遠鏡のイメージでは、暗い領域は星の光がダストに吸収される場所である。ウェッブとハッブルの個々のイメージは ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 及び ハッブル宇宙望遠鏡 からダウンロードできる。
<色の解析>
ガスとダスト:
ウェッブの高解像度赤外線イメージでは、ガスとダストはオレンジと赤のはっきりとした色で際立っており、ギザギザのエッジのように見えるより細かな渦巻き状を示しているが、これらの領域はまだ拡散している。ハッブル宇宙望遠鏡のイメージでは、ガスとダストは同じ渦巻き状の形をたどり、ぼんやりとした暗褐色の車線として現れている。そのイメージはウェッブのイメージとほぼ同じ解像度であるが、ガスとダストはより小さなスケールの星形成の多くを覆い隠している。
明るい中央のスパイク:
ウェッブイメージの銀河のコアにある明るい赤の回折スパイクは、銀河 NGC 7496 に見られるような、活動中の超大質量ブラックホールの「痕跡」かもしれない。しかし、銀河の中心にある特大の回折スパイクの全てがブラックホールによって引き起こされるわけではない。それらは、多数の非常に明るい中央にある星の集団が、ウェッブのイメージの中央領域あるときに時折現れる。
ハッブル宇宙望遠鏡のイメージでは、銀河の核はそれほど明るくないので、これらのスパイクは存在しない。回折スパイクは、光源が非常に明るくコンパクトな場合にのみ発生する。
古い星
ウェッブのイメージの中央領域が青く光っていることがある。これは、古い星が高濃度であることを示すマーカーである。ウェッブの赤外線観測によって、ガスやダストを通してこれらの古い星を特定することができる。これらの古い星が発する光は、ウェッブのイメージの中で最も短い赤外線波長の一部であるために青色が割り当てられている。ウェッブのイメージに色がどのように正確に適用されるかについては こちら から。比較として、ハッブルのイメージのコアは、柔らかい輝きの中央領域を洗い流し光の個々の点を完全に覆い、より黄色に見えるかもしれない。ハッブルのイメージでは、古い星達は、ハッブルが捕える可視光線で最も長い波長のいくらかを発しており、それが色の割当を異なる理由となっている。(ハッブルとウェッブ観測の光の波長を比較して見よう。)
若い星
ウェッブのイメージでは、銀河の渦巻腕に沿って、新しく完全に形成された星も青く見える。その青い星は、すぐそばにいたガスやダストを吹き飛ばしてしまった。中心から離れれば離れるほど星は若くなる可能性が高くなる。オレンジ色の星は、これらのイメージに群がっていると思われるが、さらに若く、ガスとダストの繭に包まれているために、形成を続けることができる。
ハッブル宇宙望遠鏡のイメージでは、若い星が青と紫で飛び出し、ほとんどどこにでも現れる。対照的に、銀河の中心付近にある古い星は黄色がかって見える。星形成領域
ウェッブのイメージで明るい赤とオレンジの塊を探そう。これらは、銀河の渦巻の腕の外縁に向かって特に簡単に識別できる。これらは星形成の領域であり、中間赤外線光は、活発に形成されている星の主要な成分であるために、混合物の大部分を占めるガスとダストを強調している。ハッブル宇宙望遠鏡のイメージでは、星形成領域は明るい青や紫の集まり、時には赤やピンクの星団で、高温の星が近くの水素ガスにエネルギーを与えている。
背景の銀河
ウェッブのイメージには、きっちりと切り取られた前景銀河の、かなり後ろにある遠方の銀河が含まれている。明るい青とピンクの円盤を探し、中央に球体が付いたプレートのように、端がついて見えるものもある。赤い銀河は更に遠い。ハッブル宇宙望遠鏡の視界では、遠くの銀河は、少し近づくと明るいオレンジ色になることが多い。ウェッブのイメージのように、より深い赤のものもより遠くなる。
銀河 NGC 1566 は、ダストだらけのガスの雲の中での星の形成から、ウェッブの新しいイメージによって明らかにされた複雑な構造を生み出す過程で放出されるエネルギーまで、星形成サイクルのすべての段階を研究する研究者達を支援するために、多くの銀河のいくつかの宇宙の望遠鏡と地上の望遠鏡からの観測を含む、大規模なプロジェクトである Physics at High Angular resolution in Nearby GalaxieS (PHANGS) プログラムの一環として観測された。
NGC 1566は、ドラド座の6千万光年にある。
Jan 29, 2024