新たな知見によって、陸上の流出量や降雨量の変化に非常に敏感な沿岸域が明らかになった。
2023年に記録的な猛暑に見舞われ、この冬は米国の大部分を水浸しにした後、現在のエルニーニョ現象は、今春、勢いを失いつつある。科学者達は、この気象現象が、他に、地球にどのような痕跡を残すか、具体的には、沿岸の水の化学的な性質をどのように変えるかを観察した。
NASAのジェット推進研究所のチームは、衛星観測を使って、2011年から2022年までの10年間、世界の海面の溶存塩分(塩分)を追跡した。海面では、淡水が、陸地、海洋、大気の間でどのように落下し、流れ、蒸発するかについて、塩分濃度のパターンから多くのことが分かる。
チームは、海岸線付近の塩分濃度の年々の変化が、エルニーニョとそれに対応するラニーニャの総称であるエルニーニョ南方振動(ENSO:El Niño Southern Oscillation)と強く相関していることを示した。 ENSO は、世界中の気象に、対照的な方法で影響を与える。エルニーニョ現象は、太平洋赤道域の海水温が平年より高くなることと関連しており、米国南西部では平年よりも多くの雨や雪が降り、インドネシアでは干ばつをもたらす可能性がある。これらのパターンは、ラニーニャの時期にはやや逆転する。
例えば、2015年の例外的なエルニーニョ現象の際には、陸地の降水量が少ないと河川の流量が平均して減少し、その結果、海岸から200キロメートル離れた地域で塩分濃度が著しく上昇したという、地球規模の水循環の影響が追跡された。
川は雨水を何百キロメートルも海に流し、科学者達がまだ発見していない方法で沿岸の水の構成を変えることがある。2023年12月に撮影されたこの衛星画像(左上の図)では、ミシシッピ川からの堆積物に富んだ大きなプルームが、冬の雨の後、ルイジアナ州とテキサス州のメキシコ湾岸に広がっている。
また、陸地の降水量が平年より多い地域では、河川の流量が増加し、海岸付近の塩分濃度が低下した。
研究チームは、海岸近くのこれらのダイナミックな帯域では、外洋よりも塩分濃度の変動が少なくとも30倍大きいことを発見した。雨、川、塩分の関連性は、ミシシッピ川やアマゾン川などの大きな河川の河口で特に顕著であり、淡水の煙が海に噴き出すときに宇宙からマッピングできる。
信号としての塩
地球温暖化に伴い、研究者達は極端な降水現象や流出量の増加など、水循環の変化を観察してきた。陸と海が交差する沿岸水域は、影響が最も検出しやすい場所かもしれない。
降雨と流出に対する感受性を考えると、沿岸の塩分濃度は一種の指標として機能し、水の循環に展開している他の変化を示している可能性がある。
彼女は、人口の約40%が海岸線から約100キロメートル以内に住んでいるにもかかわらず、世界の沿岸水域のいくつかは十分に調査されていないと指摘した。その理由の一つは、河川水位計やその他のオンサイトモニターは維持費がかかり、特に遠隔地では地球全体をカバーできないことである。
そこで衛星観測機器の出番である。2011年に打上げられたアクエリアス・ミッションでは、海洋のマイクロ波放射の微妙な変化を検出するために、非常に高感度の放射計を使用して、海面の塩分濃度を宇宙から世界的に観測した。アクエリアスは、NASAとアルゼンチンの宇宙機関である CONAE (Comisión Nacional de Actividades Espaciales)のコラボレーションだった。
現在は、欧州宇宙機関の、土壌水分・海洋塩分(SMOS)ミッションとNASAの土壌水分アクティブ・パッシブ(SMAP)ミッションという二つの高解像度ツールによって、科学者達は、海岸線から40キロメートル内までズームインすることができる。
研究者達は、三つのミッションすべてのデータを用いて、沿岸水域の表層の塩分濃度が毎年3月に世界最大値(34.50 実用塩分単位、PSU)に達し、9月頃には世界最小値(34.34 PSU)に低下することを明らかにした。
外洋ではサイクルが異なり、表層塩分濃度は2月から4月にかけて世界平均の最小値(34.95 PSU)、7月から10月にかけて、世界平均の最大値(34.97 PSU)に達する。外洋は、かなり大量の水を含み、河川の流量や ENSO の影響を受けにくいため、季節や年による変動はそれほど多くない。その代わり、変化は、地球規模の降水量から全球蒸発量を差し引いた値と、大規模な海洋循環などの他の要因によって支配されている。
この研究成果は、学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。
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<出典>: Jet Propulsion Laboratory